昨日、所用があったので、バスで目的地まで移動した。
バスは相変わらずお年寄りの人が多いのだが、今回は少し雰囲気が違う。
車内のどこかから、聞き覚えのある男の声がする。
素面なのに酒に酔っているような、言葉にし難い独特な響きを持つ声。
バスに乗っている時はその正体が分からなかったが、降りた途端に思い出した。
そうだ、あれは昔田舎に住んでいた時、私の近くに住んでいた男の声だ。
顔や名前は全く記憶にないが、その独特の声と、色々あって仲が悪かったことだけは覚えている。
だが、バスに乗っていた男性は声だけが似ているだけで、おそらく私の因縁の相手ではないだろう。
その理由は、彼が同行者と交わしていた会話にある。彼は会話の中で、特定の地域と交通機関の名前を出していた。おそらく、その地域から交通機関を利用してここまでやってきたのだろう。
ということは、彼はその地域に縁がある人間という可能性がある。
私が住んでいた田舎がその地域と一致すれば、彼が因縁の相手である可能性もあるが、実際はかすりともしていなかった。
おそらく人違いなのだろう。でも、声だけは妙に似ている気がしたので、少し気味が悪かった。